【〔禅的〕持たない生き方】金嶽宗信
本のレビューで、”目新しいことが書かれていなかったので、★1つ”という評価をときおり見かけます。
でも、どこかで読んだことあるのって、鉄板のやり方だったり理論だったり思考だったりして、そのこと自体が検証されたものだと考えることもできます。”新しくない”からその本の価値が下がることはない、と思います。
【〔禅的〕持たない生き方】も、生き方の本をたくさん読む人には、どこかで読んだことがある内容です。
とはいえ、読み方をひと工夫して私は、禅というより、ミニマリズムの本として読んでみることにしました。
これが”当たり”だったんです。
なにが当たりかといえば、著者の金嶽宗信さんはこう書いています。
禅を含めた仏教では、最低限の生活に対して、必要なものだけを持つというのが、基本的な考えです。
これだ!と思いました。帯に書かれている「本来無一物」の言葉も、
自分が所有するものは本来、一つもないという禅の言葉です。
究極のミニマリズムです。
でも物を捨てるに関しては、他の本にも載っているので、本書では仏教らしく(思想や哲学らしく)、「心」に注目しました。
心のいらないもの「偏った見方」と「悪い感情」。「ちり」や「ほこり」にたとえて、それらを払っていくことが「禅の考え方」とします。
自分の中にいつのまにか溜まっているちりを払うために「生活に禅を取り戻す」。
「取り戻す」とは、かつては生活の中に禅が生きていた、ということです。でも難しいことではなく、身の回りの整頓をするのも禅(このあたり、ミニマムですね)、つまり掃除をするのは禅の修行の1つです。余談ですが、歯磨きだって修行なのです。
食事も禅の世界では重んじられているのは有名です。気にはなっているんですが、ついついおろそかになっていたのを、本書を読んで改めて精進料理をついて調べるきっかけを得ました。
今の食べ物は何を食べるかじゃなくて、味付けのほうが重要になっている気がします。食べ物は直接体に入るものですよね。これについても金嶽さんはこう言います。
私たちは、自分にとっていちばん身近な道具である自分の体を、ついついないがしろにしてしまいがちです。
おいしさ、だけ追い求めていいんでしょうか。
金嶽さんの修行時代の食事風景も紹介されていますが、食材も調味料もシンプル。ちなみに食器用洗剤もない。たくあんで食器をぬぐう場面を読んで、そういえば親も食べ終わったお茶碗にお茶を入れて飲んでいたのを思い出しました。これって洗い物に水を使うのを節約するためか……。食器用洗剤もあぶら物がなければいらないことに気付きました(まぁ除菌ということもありますが)。
偏った見方や悪い感情を持つ原因の一つに「執着」があると思いました。これってあらゆる場面で悪影響を及ぼす奇妙なこだわりです。
執着が生まれるところが「所有」です。所有=執着。しかもやっかいなことに一つ何かを持つと「次から次へと、いろいろな執着が発生していく」のです。
執着も心のちりです。
ミニマリズムの着地点は心の「自由」を得ることだと思いますが、執着はその邪魔をする最大のものの一つです。
金嶽さんは托鉢に出かけた時、生活が豊かと思われる人より、貧しい人の方からより多く恵みをいただいたと言っています。
物が豊かになればなるほど、人間は自分の頭で考えないようになってしまうという弊害もあります。
この言葉は、現代に重くのしかかっています。コロナのことでも、ゲテモノな情報に接して深く考えもせず、それこそムダな行動に駆り出された人のなんと多いことか……。と言いつつ、自分はまったくそうじゃない、とは言いません。なので考えること、勉強することは続けたいと思います。
事柄にしても物にしても、これはどういうことか、これは本当にいるものかを判断する基準に、金嶽さんは「今」を挙げています。
事柄の最新の複数の意見を比較する、これはいま必要かを考える。「今」。これはマインドフルネスですね!
私はミニマリズムもマインドフルネスも、禅から生まれたのかと思いました。すでに禅で、とっくの昔に実践されていたのです。でも悲しいかな、人間は忘れるのです……。
ちりやほこりをなぜ払うのかは、自由になるためです。持っていない人のほうが「心は自由で、実は豊かなのではないか」。
物を一つ持つごとに、どんどん自由が縛られていきます。
そもそも物がいっぱいの状態は「新しいものを受け入れられない」ので、いらないものを処分するのは、今までの、何か自分に不満や不安を抱いている時に必要な行動なのかもしれません。しかし金嶽さんは、愛着を感じているものを無理して捨てる必要はない、と注意されていることをつけ加えておきます。
ちなみに、収集癖についても書かれていて、どうしてもやめられない時には「心を満たす」方法を考えることを提案されています。
例えば本好き(私みたいな😅)の人は、本屋さんを「自分の本棚」と思うとか。……参考になります。